すべての命に「ようこそ」と言える社会へ(後編)

決めたとはいっても重度知的障害児である息子を受け入れてくれる場所などそうそう見つかるはずもなく電話口で断られてしまうことなどザラだった。どんなに想いを伝えてもどうにもならず当時ご縁のあった様々な方々に助けて頂き支えて頂きながら何とか通える場所を見つけるところまでこぎつけた。

前編はコチラから

こうして息子は療育にも通いながら週3日保育所に通うことになった。それまで障害のある子供たちの中で育ってきた息子が健常児たちに囲まれてどんなふうに感じるのか周りの子供たちは受け入れてくれるのだろうか?

本当にこれで良かったのだろうか?山のような不安を抱えながら緊張でカチカチだった私たちの心を時間をかけて少しずつ溶かしてくれたのは保育所の先生方や息子のために加配でついてくれた先生そして周りの子供達とその保護者達だった。

周りの子供達は日々無邪気に子供たちと触れ合い息子もまた時には涙を見せたり時には満面の笑顔だったりしながら戸惑いつつも様々な感情の表現を豊かにしていった。勝手な思い込みで壁を作り越えようとしなかったのは私の方だと気づいた。

そんなある日加配の先生が言った。「徹ちゃんはみんなで見るから。大丈夫だから。お母さんは笑っていて。お母さんは家族を照らす太陽なんだから」涙が出た。もっと頼っていい。もっと人を信じていい。もっと周りの子供たちを信じていい。

そして何よりも朝、保育所の門に向かうまでの短い坂道をはち切れんばかりの笑顔でヨタヨタと駆け上っていく息子の姿を見るにつれこれで良かったんだと日々そう思えた。

保育所に通う一年は本当にあっという間だった。ある時たまたま見学させて貰った家を家族全員が気に入ってしまい無計画に家を購入。ふと気づくと目の前に小学校。毎日子供たちの賑やかな声が聞こえていた。ここへ通わせよう。やはり不安は山のようにあったけれど保育所での日々に背中を押されるようにして私達は目の前の小学校へ入学を決めた。

入学前に教育委員会や療育関係者とのやりとりが多くあり、その中には心をえぐられるような言葉や扱いの数々もあったけれどそれによって考え直したり迷ったりする事は無かった。それはきっと保育所での触れ合った日々とたくさんの優しい記憶と出会った子供たち先生方保護者の方々から頂いたあたたかなパワーのお陰だったのかもしれない。

何度話し合いを繰り返しても支援が必要なら支援校へ。地域の学校では何もできないと言われるだけのやり取り。どんなに想いを伝えても話は前に進まず落胆する事も沢山あったけれど、ここでもまたご縁のあった方々のお力をお借りしながら何とか入学までたどり着く事が出来た。

そうやって始まった小学校での6年間は担任の先生を始めたくさんの先生方に様々な形で関わっていただきながら過ぎていった。(小学校6年間の学校生活に関してはまたどこかの記事で文章化するかもしれません)

そして周りの子供たちとの関わり触れ合い支え合い中にはいつもたくさんの表情を見せ続ける息子がいて周りの子供たちも息子と出会い日々様々な形で触れ合う事で違いを認め合う事互いに支え合う事そして言葉では伝え切れないそれぞれが抱える様々な思いを感じ合いながら共に成長していたように思う。

障害という言葉の意味すらまだ知らない幼い頃から近くにいて触れ合い互いの体温を感じ合うかけがえのない時間を重ねていくことで解けよくもの通じ合える事は本当に沢山あるのだと思う。互いに触れ合う場所も機会も与えられていない今の教育制度や社会の中で大人になってしまった我々には得ることのできないかけがえのない思いが体験が経験がそこには存在している。

そうやって子供たちは本当にたくさんの思いを感じながらありのままにその存在をそれぞれの感じ方で受け止めていく。障害があるとか無いとかそんな事は子供たちにとってはどうでもよくて、息子はちょっぴり大変な事もあってちょっと自分とは違うみたいだけど一緒に居ると楽しくて面白くてちょっぴり癒されちゃう、そんな存在だったのだから。

こうしてリアルに関わり合う生活の中にこそ真のインクルーシブがあるのではないだろうか?

合理的配慮とは分けられた場所にあるものではなく共に過ごし関わり合う生活の中に様々な工夫としてあるものなのではないだろうか。

リアルな経験のない知識のみの難しい理論や議論では到底追いつくことのできない世界がそこにはある。

そして日々の触れ合いや関わりの中で沢山の経験や思いを育て合ってきた子供達が大人になりやがて多くの人たちにとって今も答えの見えない問いを優しく照らす光になっていくのではないだろうか。

そして子供たちは「すべての命にようこそ」と言える大人になっていく。人は変われる生き物だと思う。だから出会う事で変わるものがあるなら出会い続けていきたい。そんな場所大人は作っていく必要があるのではないだろうか。

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