
皆さんは身体の不調がみられ、病院に行っても何も悪いところはないと言われたにも関わらず、身体の不調の症状が軽減してこないといった経験はないでしょうか。
実はこの症状「心気症」かもしれません。
今回は、現在のストレス社会の中で増加してきている心気症について考えていきたいと思います。
心気症とはどういった病気なのか

心気症とは別名「身体表現性障害」とも言います。
主にどういった症状が見られるのかというと、特別に身体が病気などにかかっていないにも関わらず、自分の身体はかなり重症で治ることのない病気にかかっているという頑な考えにとらわれているといったような症状が見られるのが特徴です。
誰も指摘していないにも関わらず、身体の体調不良などについてまるでとりつかれたように訴え、具体的な病名を出すことで絶望感をあおるような行動に出ることもあります。
しばしば似たような症状が見られることからうつ病と診断される場合もあり、実際に多くの心気症の方にうつ病の症状である抑うつと不安感などがみられることがあります。
有病率はうつ病と混在する場合が多いので正確な確率ではありませんが、病院にかかっている方の中で5%から15%は心気症の疑いがあるとされています。
ただうつ病と違って男性と女性で男女差はほとんどなく、比較的若い世代である20代の方に多くみられます。
~原因~
原因についてははっきりと確立されたものはありませんが、うつ病や自律神経失調症と似たような原因がいくつかみられます。
以下に心気症の原因についてまとめていきたいと思います。
・生活のリズムの乱れ
現代社会において生活のリズムを規則正しく設定することが難しい方が多くなってきています。
仕事や育児・家事などが重なることで夜遅くまで起きていたりなどの生活リズムが崩れることで、体調不良や睡眠障害といった症状を引き起こしてしまいます。
・過度な心的・身体的ストレス
これも生活習慣の乱れと関連がありますが、仕事などでの人間関係から感じる精神的ストレス、思うように物事がいかないことから感じる社会的ストレスなど、心的・身体的に過剰なストレスがかかると自律神経のバランスが乱れてしまいます。
・生まれつきの体質や性格
幼少期より体調を崩しやすかったり、学校になかなか行けなかったりなどの元々生まれつき体調が優れないことが多かった方は、やはり社会に出てからもストレスを感じやすい傾向があります。
心気症はうつ病を始めとした自律神経の乱れが原因となる病気なので、誰しも病気にかかってしまうリスクがありますが、生まれつき身体が弱い体質の方は心気症に罹患するリスクは高くなります。
また、うまれつきの性格も大きく影響します。
特に真面目でおとなしく、周囲に気を使いすぎる性格の方は注意が必要です。
このような性格の方は、周囲の目が気になってしまい、少しの失敗でも過剰に自分を責めたり、気持ちの切り替えができなかったりなどの感情のコントロールが苦手です。
そのため、知らないうちにストレスを溜め込んでしまい心気症になってしまうリスクが高まります。
その他にも、感情表現が苦手、相手に依存してしまいやすいなどの性格の方はストレスへの抵抗力が弱い傾向があります。
・ホルモンバランスの乱れ
ホルモンバランスの乱れは女性に多く見られる症状ですが、男性にもホルモンバランスの乱れがみられる場合があります。
特に学生時代の思春期や第二次成長期といった時期は自分の身体の変化が著しく起こるため、精神的にも葛藤を抱えやすい時期です。
この時期はホルモンのバランスが乱れやすく、些細なことでストレスに感じてしまうこともあります。
思春期の経験がトラウマになり、心気症になってしまうリスクが高まってしまうこともあるのです。
・大幅な環境の変化
近年は多くの情報が行き交い、SNSなどの過剰な情報が個人によってストレスに感じてしまいこともあります。
こういった社会環境の変化が人間関係、家族関係などに大きく影響することで心気症のリスクが高まります。
心気症はどのように経過していくのか

比較的20代という若年期に発症し、通常経過は良くなったり悪くなったりを繰り返しながら慢性的に続いていきます。
しかし、50歳以降に若年期と同じように心気症の症状がみられることはまれで、おおよその患者さんは治療により改善していきます。
子供の頃に心気症になった場合はもっと症状の経過が良い場合が多く、成人になるまでの間に症状が良くなってくる場合が多いです。
心気症は、非常に困難な問題に直面したときに代替する形で重い病気になったと訴えるようになるので、自分が困難な場面に直面しているということを周囲に理解してほしいという気持ちの部分も大きい病気です。
こういった経過をたどるということをしっかり周囲が理解することが重要です。
最後に心気症の診断基準をまとめます。
~診断基準:ICD-10(国際疾病分類)第5章 精神および行動の障害より~
心気障害
確定診断のためには、以下の2つのものがなければならない。
・繰り返される検索や検査により、何ら適切な身体的説明ができないにもかかわらず、現在の症状の基底に少なくとも1つの重篤な身体的疾病が存在するという頑固な信念、あるいは奇形や醜形があるだろうという頑固なとらわれ。
・症状の基底に身体疾患や異常が存在しないという、数人の異なる医師の忠告や保証を受け入れることへの頑固な拒否。
~診断基準:DSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)より~
病気不安症
A.重い病気である、または病気にかかりつつあるというとらわれ
B.身体症状は存在しない、または存在してもごく軽度である。他の医学的疾患が存在する、または発症する危険が高い場合(例:濃厚な家族歴がある)は、とらわれは明らかに過度であるか不釣り合いなものである。
C.健康に対する強い不安が存在し、かつ健康状態について容易に恐怖を感じる。
D.病気についてのとらわれは少なくとも6ヵ月は存在するが、恐怖している特定の病気は、その間変化するかもしれない。
E.その病気に関連したとらわれは、身体症状症、パニック症、全般不安症、醜形恐怖症、強迫症、または「妄想性障害、身体型」などの他の精神疾患ではうまく説明できない。
まとめ
今回は心気症についてまとめてみました。
心気症は身体的な症状を訴える病気ですが、その本質は精神的にストレスを感じることで発症しやすくなるこころの病気です。
病態と原因をしっかり理解し、適切な対処ができるようにしていきましょう!